[読書]マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と (コミケット叢書)

マンガと著作権―パロディと引用と同人誌と
米沢 嘉博
コミケット (2001/08)
売り上げランキング: 106,861
以前購入したまま積読状態になっていたものをようやく読了。
末次由紀問題で論点になっている件に関してもこの本の中ですでに一通り洗い出されています。
竹熊健太郎氏の共有素材ライブラリーに関してもこの時点ですでに提案がなされてますし。
だから、末次問題に関しては業界側が悪しき慣例として放置していたものをネットで指摘して大騒動になったという部分が大きいのではないかと思います。末次氏の盗作に関しては以前から指摘や作品の訂正などがあったようですから。それを黙殺して仕事を与えて(=自分たちも利益を得て)きたのに突然切り捨てる講談社の態度はやはりどうかと、私としては相変わらず思っているわけですが。
…こういうのは言論の封殺に簡単に繋がりそうでイヤなんですよ。それを出版社がやっていいのか、と思うし。
…ただ法律問題としては、この本の中で何度も繰り返されているように著作権に関しては著作に関して自然に発生する権利ではありますけど、この事に関して公の罰を与えようとするのならば、あくまでも親告罪ですから、それを公権力によって裁く、となるとあくまでもパクられた側(例えば井上氏や上田氏)から裁判を起こす→訴訟内で事実の認定をし、それがどういった罪に当たるか検討する→判決が確定する、という手順を踏まなければなりません。

読む側が末次氏に関してどう思おうが、それは憲法で保障された良心の自由に属する項目ですから、末次氏の基本的人権を侵さない限りでは自由ですが、著作権法上はあくまでも関係がない。

これまでファンだった人たちが買って損をした、と思うのならば、末次氏と講談社に対して消費者の立場から集団訴訟でも起こしたら良いのでは、と思うんですが、それもあくまで本を購入した人限定ですしね。
もっとも今回の事件で社会的に抹殺されたも同様だろうから、そういう意味で十分罰は受けたんじゃないかと思うし、実際被害者が集団訴訟を起こしたところで、そういう社会的な事情を踏まえて公的な罰というのは殆ど下されないんではないかと思います。全作品絶版になったし、連載もストップしましたから。

例えばもしこの時点で末次氏が自殺したりしたら、責めてた人たちはどう思うんでしょう。「あてつけウゼェ」とか「死んで当然」と思うんだったらそっちの方が怖いんですが…。
「私はあなたの思想には反対する、だがあなたが発言する権利は最大限に守る」(出典を忘れたので正確な言葉ではありませんが、たしか大意ではこういうのだったと思います)という社会であって欲しいんですけどねえ、一応日本は民主主義の国なんですから。

私としては、ただ責める方向から、竹熊氏のサイトで議論されているように、共有ライブラリー構想など「今後マンガ界をどう良い方向に進めていくか」に話を進めて欲しいなあ。私も出来る限りのことをしたいな、と思います。描く側からすれば、資料は多いに越した事はないんですよね。しかもそう簡単に集められるものでもないし。ついお手軽な方向に流れそうになるのは、自分でもよくわかるからなあ。だからこそ戒めとして、自分でもこの件に関しては色々調べているわけですけれど。