麻宮サキへのラブレター、そして和田慎二先生へ贈るファンレター

正直なところ、今も信じられませんし、信じたくはないのですが。
和田慎二先生ご逝去の報に際して、ここで一言述べておかないと絶対に後悔すると思いましたので。

私と和田作品との出会いは、雑誌「花とゆめ」に連載されていた「ピグマリオ」の「夢の実」というエピソードをたまたま読んだ事に端を発しています。

旅をする主人公クルトと、ともに旅をする少女オリエがたまたま立ち寄った街で別々に行動し、人助けのために一晩だけ大人になれるという「夢の実」を食べ、互いが大人になったことに気づかずに出会って恋心を自覚する、というとても甘く優しいお話でした。

読んだ私はすっかり夢中になり、続いて、マンガ好きの伯母の家にあった「スケバン刑事」を読んだのでした。

当時小学2年生だった私には残酷で正視出来ないシーンもあったのですが、主人公・麻宮サキの強く優しい生き方に一気に引きこまれ、何度も何度も読み返しました。
丁度その頃、まだ集英社から発行されていた「超少女明日香」シリーズが一般書店で流通しており、私は少ないお小遣いを貯めては、和田作品を買いに行く熱心なファンになりました。

以来ずっと、現在に至るまで、和田作品を読み続けています。

和田作品に登場する主人公は、大なり小なり、心に痛みを抱えています。
母親が父親を殺害するシーンを目の前で見る事になった麻宮サキスケバン刑事)。
赤ん坊の頃に母親を石にされ、やがて母を人間に戻すために幼くして旅に出る事を選ぶクルト(ピグマリオ)。
生まれ育った村をダムの底に沈められ、お手伝いとして流浪しながら復讐を考える明日香(超少女明日香)。
幼いころに母を亡くしパパと二人で暮らす恵子(パパと恵子シリーズ)。
など、挙げたらキリがないのでこの辺にしておきますが、主人公たちは悩み苦しみながら、次々襲い来る逆境を全力で乗り越えていきます。
その強さに憧れ、ドキドキハラハラし、時に笑い、涙する、正統派な物語の醍醐味をたっぷりと味わえる快楽を、私は和田作品から学びました。

そして物語の結末が、決して全て丸く収まって大団円、という訳ではなく、ほろ苦い余韻を残すことが多いのも特徴かもしれません。
ただそれは悲劇的ではなく、作品の印象を心の中に強烈に焼き付けるためのスパイスになっている。

また、和田作品は、大長編から短編に至るまで隙なく面白いのです。
復讐譚「銀色の髪の亜里沙」、横溝ばりの猟奇事件を扱った「朱雀の紋章」、コメディ「ラムちゃんの戦争」など、単発ものから探偵・神恭一郎を主役とした一連のシリーズ、そして「ピグマリオ」「スケバン刑事」「怪盗アマリリス」などの長編まで。
もともとジャンル:少女マンガとして描かれた作品は、残酷さから目を逸らさない一方どこか抑制の効いた上品な表現で、それも一見の価値があるのではないかと思います。
そして、ご本人の豊富な知識を総動員した衒学的ですらある作風。本格ミステリやアニメへのオマージュ。
どれだけ沢山の事を和田作品から学んだか!

死去の報で和田作品に興味を持たれた方は、是非手にとって頂きたいです。
日本のファンタジーコミック界の「指輪物語」と言っても差支えないであろう「ピグマリオ」は特に、今読んでも新鮮ですし、その世界観の構築と、終盤の神懸かったような素晴らしい展開はお勧めです。
少年が母親を追い求める物語から大きく展開し、やがて神話へと変貌してゆくその壮大な叙事詩を是非体験して欲しい。

そして現在読むと流石に時代を感じますが、「スケバン刑事」はドラマとは全く展開が違うので、ドラマしか見た事がない方には是非読み比べて頂きたいところ。

まずどんな本から読めば良いかな、と思っていらっしゃる方には、「神恭一郎短編集」か「超少女明日香」シリーズを。
(上記は全てメディアファクトリーより発売中です)

本当は最新作の「傀儡師リン」(秋田書店)をお勧めしたいのですが、残念ながら未完ということになってしまうようなので…。

和田作品では手塚ワールド的スターシステムを導入していて、あっちのキャラがこっちの作品に! ということが頻出します。
ご本人の分身らしきキャラクターも登場します。
誰がどこに出てくるか探すのも、和田作品の楽しみの一つですので。

でも、明日香と一也の恋の結末を、リンの最終回を、忍者飛翔の続きをもっと読みたかった。
ご自身が描くだけではなく原作者としても手腕を発揮していただけに、余計に悲しい。

和田慎二先生の描かれた世界は、確かに私の中で血肉になって生きています。
けれども、まだ、ご本人には神話になって欲しくなかった。
今、お別れの言葉を述べることは出来ません。あまりにも衝撃が大きすぎて。

だからここでは、心からの感謝の言葉を。
沢山の素晴らしい作品をありがとうございました。
和田先生の作品は私の大きな糧です。
きっと何度も何度も読み続けると思います。

そして以下は、個人的に「スケバン刑事」と麻宮サキへのラブレター。

私がめったに表に出さない百合属性全開なので、ご不快に思われる方はここから先は読まないで下さい。
読まれる方は下記をスクロールしてお読み下さいませ。













小学生の時から現在に至るまで沢山の漫画を読んできているのですが、今でも女性キャラクターで一番好きなのは「スケバン刑事」の麻宮サキです。
神恭一郎との友情以上恋人未満の関係(よく考えたら今も私の中でバディもの属性として残っている…)もさることながら、何よりも、同性から見てカッコいい女性、というのがたまらなく良かったのです。
男性が描く女性像だから、というのもあったかもしれませんが、恋愛もの全盛の当時の風潮の中で、ひたすらストイックに修羅の道を歩み続けるサキの姿は、痛々しいけれど心惹かれてなりませんでした。
コミック第2部「魔女狩り編」では、サキの同級生で、「サキが初恋だったの」と告白してサキにキスをする女性キャラクターが登場します。
70年〜80年代という時代を考えると、今になっては「なんてハイエンドな百合展開…!」とも言える訳ですが。
私にとっても、麻宮サキはそういう存在だったのかもしれません。
おかげで現在すっかり、百合属性が身に付いた私がここにいるわけですが。

そして、「スケバン刑事」は、麻宮サキと海槌麗巳の物語と言い換える事も出来るでしょう。
1部はサキと麗巳がお互いに追いかけあい、闘う物語。
2部は、麗巳を喪ったサキが、知らず麗巳の影を探し続ける物語。
結局2部では、麗巳を超えるライバルはサキには登場しなかったんですよね…。敵ではなくて、対等のライバル。
ある意味、どんな恋愛よりも切実に互いを求める関係がそこにはあり。恋愛は片思いならば一人でも出来るけれど、ライバル関係は互いの存在がないと構築し得ないのですから。
(だからこそ、後年「スケバン刑事if」において、友となりえた二人が限りなく結ばれたのと近いような形でのエンディングを迎えたのかな、と思っているのですが。
ファンには賛否両論だったようですが、私はどうしようもなく萌えました)

今でも麻宮サキは憧れの人です。
大好き。
卒業式とともにあなたは永遠の人になってしまったけれど、私の心には生き続けています。
ありがとう。今はただそれだけを、ここに残しておきます。